田舎と都会を結んで農業に新展開を

氏 名
年 齢
就農地
就農年次




河上 めぐみ(かわかみ めぐみ)

29歳
富山市
平成22年

【法人就業/(有)土遊野】

— 取材でここ(富山市土、旧大沢野町の一番奥まった所)にくるまで、集落が途絶えて「本当にこの道でいいのか」と何度も確認しました。法人就業ですが、ここで農業をやろうと思ったきっかけは?

 30年ほど前、両親が結婚と同時に東京からここに移住して、農地を借り農業を始めました。富山へは森林の『草刈十字軍』でこの近くの山に来たのが縁だったようです。
 この自然の中で私は育てられました。大学に進学して東京で暮らし始めた時、初めはいろんな施設があり、またショッピングもでき楽しかったのですが、そのうち消費するだけの生活に少しずつ不安を抱くようになりました。ちょうど20歳の頃に、両親が生産していた鶏卵を東京にある知人のレストランに紹介する機会があり、シェフにもお客様にもとても喜んでいただくことがありました。その時、「私の仕事は、米や野菜、卵などをつくって、都会の人々に紹介し、田舎と都会をつなぐこと」だと思ったのです。

— では就活はせずに、ここに?

 そうです。ただ私は、単に家業である農業を継ぐために帰ってきたのではありません。私なりに、新しい農業に取り組んでみたいと思っています。ここは限界集落と呼ばれますが、田舎と都会を結べば今の社会に大切な価値観を伝えられる貴重な場所ではないか……、そう思いいろいろ取り組んでいます。

— 現在の経営内容を教えてください。

 水稲が8ha。この田んぼは全て棚田で80枚ほどあります。他に畑が2ha弱で、少量多品目で年間70種ほどの野菜をつくっています。また、平飼いで1,000羽ほどの鶏を飼っていて、毎日700個前後の卵を出荷していますし、パンや菓子などの加工品もつくって販売しています。さらには体験農業の受け入れも、年間200〜300人の方々に参加していただいています。

— それらの販売や集客はどのように?

 母と私が開拓しました。米は生協やお米屋さん、個人の消費者にも直販していますし、直売所でも販売しています。野菜や卵も同様です。レストランからご注文をいただいているところもあります。
 新しい販売先の開拓も積極的に行っていて、ブログで情報発信したりマルシェに出展もしています。

— 体験農業の方の人集めは?

 ホームページやブログでの情報発信の他に当社の米や野菜を扱っていただいている直売所、レストランなどからの口コミで広がっています。
 また、県の協力で小水力発電の設備を試験的に設置していただいたのですが、その見学にこられた人に体験農業のことも案内し、そこからも口コミで広がっています。体験農業は平成27年のシーズンで5年目を迎えますが、参加者の皆さんは、体験できるところを探しておられたようです。

— 棚田が80枚ほどあるということでしたが、作業効率が悪くて大変では?

 確かにそうです。平野部で飼料米の生産を委託されたことがありますが、平地と棚田では作業性は全然違います。でも私の場合は棚田での稲作が中心で、ここでの農業に魅力を感じています。棚田の米はおいしいですよ。見学にこられた人を案内すると、皆さん感動され、ここの米を食べたいといわれます。

— 今後の夢は?

 平成27年4月に、父から経営を引き継ぎ、社長になりました。当社には、私も含めて9人が働いていますが、加工品の種類を増やしたり、また販売先を開拓して、事業をもっと活性化し、そしてこの地域全体をにぎやかにしたいと思っています。「山を切り拓いて何か観光地のような場所をつくるのではなく、この自然を生かして、人が憩えるふるさとにしたい」それが私の夢です。